DESTINATION NOW TOP旅コムTOP


DESTINATION NOW

トラベルライターによるホットな現地情報
<No.19> ニュージーランド
2001年7月号


ニュージーランドのウルバ島を訪ねる
太古の自然が残るサンクチュアリ

 ニュージーランドは日本同様、南北に伸びる島国だ。日本の約7割の国土に人口380万人が住んでいる。先進諸国の中でも人口密度が最も低い国のひとつでもある。近海には小さな島々が浮かび、本土以上に太古の時代そのままの豊かな森を残している。その中にニュージーランド固有の野鳥を保護する島があると教えられ、訪ねてみることにした。

吉田 千春 (トラベルライター)


■オープン・サンクチュアリとは?
太古の波が打ち寄せるウルバの海

 その島の名はウルバという。人が住む島としては最南端のスチュワート島の側に浮かぶ小さな島だ。あまりに小さいため地図上では省かれていることが多く、ニュージーランド国内でもそれほど知名度が高いわけではない。

 2つの島には決定的な違いがある。スチュワートには島民の生活やリゾートなどの観光産業があるのに対し、ウルバは鳥とトド以外はネズミ一匹住んでいない。1899年から同国の政府機関によって自然保護地区に指定され、現在では自然保護省がオープン・サンクチュアリとして管理下においていることだ。日本語に同じ意味の言葉はないが、あえて訳すなら「人々が訪れることのできる、鳥たちの聖域」とでもいえばよいだろうか。

 もともとニュージーランドには鳥の天敵が存在しない島だった。ぬくぬくと育った鳥たちの中には羽が退化して飛べなくなったものも多く、人々が生活のために持ち込んだ(あるいは勝手についてきた)犬やネコ、ネズミ、イタチなどが増えるに従って、鳥たちの命が脅かされるようになってゆく。

 つまりウルバ島は、人間がニュージーランドにやってくる以前と同じ自然環境を保っているのである。太古の鳥と植物の楽園が海にそのまま浮かんでいるようなものなのだ。


■楽園へはトビウオ・ボートに乗って
 
ウルバ島へのボート
 島へはボートで向う。旅行会社で往復20ドルのチケットを購入した。桟橋には今にも波に飲み込まれそうな小さなモーターボートが浮かんでいる。「まさかこれで・・・・・・」。疑う余地もなく、私を含め6人の客がボートに案内された。いざエンジンがかかると服はビショ濡れだわ、立っていられないわ、ものすごい迫力である。まるで波間を跳ねるトビウオにまたがったようなものだ。高いお金を払ってラフティングのツアーに参加するより、このボートに乗ったほうがよほどスリリングに違いない。

 約7分でウルバ島に到着。島内には宿も店もないが、遊歩道がつけられており、訪問者が自由に歩けるようになっている。森に入るとどこからともなく鳥のさえずりが聞こえてきた。だが、なかなか姿が見つからない。やはり素人にはバードウォッチングは難しいかなと不安になった時、バサバサと頭上で音がした。見ると真っ赤なオウムが飛び立つところだ。こんな派手な鳥もいるの?と思わず驚いてしまう。

 それからは鳥たちが次々と現われた。丸っこい体の愛らしいトムティットが先導するかのように枝から枝へと飛び移っていったり、尾が扇のように広がるファンテイルが木の間をひらひらと舞っていたり。「何かいいことあったんですか」と聞きたくなるくらい、体を左右に揺らして楽しそうに歌っているベルバード、神妙な顔をして楽器をチューニングするように喉を鳴らすトゥイの姿も見ることができた。思わず顔がほころんでしまう。可愛らしい。鳥たちがこうも楽しませてくれるものかと不思議に思う。

飛べない鳥キウイ

■NZのシンボル、キウイバードと遭遇!

 突然、ガサリと大きな音がした。驚いて足元を見ると、大きな卵型の体に長い長いくちばし・・・・・キウイ・バードがいたのである。この鳥はニュージーランドのシンボルだが、飛べないために天敵に襲われることが多く絶滅の危機に瀕している。最近では地元の人でも野生のキウイはめったに見られないといわれているのだ。

 慌ててカメラを構える。キウイは私に気付き、低木の後ろに隠れたようだ。だが体が大きいので、お尻もくちばしも丸見えである。その愛嬌ある姿に笑いそうになりながら『待って、そのまま』と念じファインダーをのぞく。だが辺りが暗すぎてシャッターがきれないのだ。

 『フラッシュを使えば驚いて逃げるだろうし・・・』。悩んでいる間に、キウイは私の存在を忘れたかのように、とっとっと、と大股で歩き始めた。『待って、待って!』とっとっと(側を横切る)『ちょっと、ちょっと』ガサガサガサ、(立ち止まり餌を探し始める)。

 私は諦めた。暗闇で動き回る鳥を撮れるわけがない。そんなことで焦るより、せっかく神様がくれたキウイとの時間を楽しむ方がいいじゃないか。それから数分間、私は辺りを歩き回るキウイを幸せな気分で眺め続けたのである。


ニュージーランドの象徴シダの葉
■ラット・フリーの環境を守る

 ニュージーランドの自然保護省では鳥を天敵から守るための様々な活動を行っている。例えばウルバ島では1997年にネズミ撲滅プログラムが実施され、ネズミが一匹もいない環境が実現した。現在でも観光客を乗せたボートやカヤックからネズミが島に渡る可能性が高いため、桟橋付近にネズミ用の罠が仕掛けられている。将来的には島を訪れる観光客の数を制限するなど、厳しい規制が設けられる可能性もあるという。

 恐らく楽園を守るということは楽園を創るのと同じくらい困難なことなのだろう。人間の生活圏の側に浮かぶウルバ島が今の環境を保つためにどれだけの労力が払われているかは想像に難くない。だが生態系を壊してしまった責任感から、鳥たちのために尽くす人たちがいることを、同じ人間としてとても嬉しく思った。


DESTINATION NOW TOP旅コムTOP